遺言能力の判断基準とは、遺言書を作ったときに、遺言した人が、その時に頭がしっかりしていて、遺言書を書くにあたり、問題なかったといえることが大事です。
そこで今回は、遺言能力の判断基準について解説いたします。
そして、後半は、遺言書に書くことができる事項について、解説いたします。
遺言能力の判断基準
遺言は,相手方のない単独の意思表示であるので,遺言者が遺言をするには,遺言をする時に意思能力,つまり,遺言事項を具体的に決め,その法律効果を弁識するに必要な判断能力を有することが必要です(民法963条)
遺言者に認知の症状があったとしても,公証人らが本人と面談した上で遺言能力の有無を判断することになります。
「本人は認知症だから,判断能力がなし」と即断する必要はないと思います。この遺言能力に関しては,参考となる条文が民法にあります。
参考となる条文
それは,民法961条の「15歳に達した者は,遺言をすることがでる」という条文です。この条文を「遺言ができる年齢を定めたもの」という観点とは別の角度から解釈してみると,「遺言の作成には中学3年生~高校1年生程度の判断能力があればよい」ということも見えてきます。
そうすると,遺言における判断(意思能力)の基準については,厳格なものである必要はなく,少なくとも「遺言の意味内容がある程度分かればよい」くらいのもので足りると思われます。
遺言能力判断基準 参考例
例えば,父親において,「俺の家屋敷は母さんに,駅前にある駐車場は息子に,家屋敷の裏にある田畑は娘にあげる」程度の認識があれば父親には遺言をするときに必要な判断能力があるとして,遺言を作成することは可能であると思います。
遺言の意味内容がある程度わかること。これが遺言者に遺言能力があるのか,ないのか,の判断基準となりうる。
遺言事項(遺言できる事項)
遺言できる事項は,法律(民法)で定められており,その主な事項は次のとおりです。
① 推定相続人の廃除
遺言者に対して虐待を加えた者などの廃除(民法893条)
② 相続分の指定
法定相続分と異なる割合で相続分を定める(民法902条)
③ 遺産分割方法の指定
現物分割・換価分割など分け方を定める(民法908条)
④ 遺贈
遺言による贈与で相続人以外に財産を分けるもの(民法964条)
⑤ 認知
婚姻していない男女間の子を自分の子と認める(民法781条)
⑥ 遺言執行者の指定
遺言を実行・実現してくれる者を決める(民法1006条)
⑦ 祭祀主催者の指定
祭祀主催者の指定(祭祀財産(墓や仏壇)を受け継ぐ者を指定)(民法897条)
なお,上記以外の事項,例えば,「遺言をした理由,葬儀の仕方,家族間の介護の方法」などを遺言書に記載しても,これらは上記の遺言事項ではないため,法的効力はありません。しかし,「付言事項(ふげんじこう)」として,遺言書に併記し「遺言を作った理由など遺言者の思い」として残しておくことをおすすめします。