今回から,新たに「離婚に関する基本的な事項」について,4回にわたって説明していきます。
「離婚する前に知っておきたいこと」として、第1回目は,離婚協議書、養育費について解説します。
相続・遺言の説明のときと同様に,公証人の業務を経験したことも踏まえて分かりやすく,丁寧に説明しますので,引き続きよろしくお願いします。
知らなかったと後悔してからでは遅いです。離婚する前に,離婚に関する基本的な知識を身につけましょう。
離婚の方法について
離婚の方法には、主なものとして
協議離婚
当事者の協議によって合意し,離婚届けを市区町村長に届け出る
調停離婚
家庭裁判所の調停手続における調停の成立
裁判離婚
夫婦の一方から家庭裁判所に離婚の訴えを提起し,離婚する旨の確定判決を得る
の3つがあり,ほかには数は少ないですが, 審判離婚(離婚調停で成立しない場合に,離婚させる旨の審判によって成立する)もあります。
このうち,協議離婚が90%,調停離婚が10%弱,裁判離婚が1%程度となっており,ほとんどは協議離婚です。
離婚協議書の作成について
離婚の際は双方が話し合って「養育費,慰謝料,財産分与(夫婦の財産分け),子供との面会交流等」の約束事を事前に取り決めておきます。
この取り決めた内容については,後で紛争が生じないように,口約束ではなく文書にして残し明確にしておくことが大切です。その文書も単なるメモではなく,その約束事の存在や内容等が裁判上の証拠となるように,ちゃんとした離婚協議書を作成しておくと安心です。
離婚協議書は当事者双方の合意と署名押印で成立します。
離婚協議書に基づく公正証書の作成について
養育費等金銭の支払いに関する取り決めを公正証書でした場合には,相手が約束に反して養育費等の金銭を支払ってもらえない場合に強制執行の手続を利用することができます。
この公正証書は,実務上「離婚給付等契約公正証書」(以下,単に「離婚公正証書」といいます)として作成し,上記の離婚協議書に基づき,公証人が当事者と面談して双方の合意を得て作成します。
こうしておけば,相手方が養育費や慰謝料等の金銭債務を支払ってくれないときは,調停や裁判をすることなく,離婚公正証書に付与されている強制執行力を活用して,強制執行の手続をとり相手方の給料や預貯金等の財産を差し押さえ,養育費等を強制的に取り立てることができるのです。
私が公証人の業務をしていた8年間においては,離婚協議書を作成するとともに離婚公正証書を併せて作成しておくケースがほとんどでした。
離婚協議書や離婚公正証書に記載する主な事項について
①離婚の合意
②親権者と監護権者の定め
③子供の養育費
④子供との面会交流
⑤離婚慰謝料
⑥離婚による財産分与(結婚中に夫婦が築いた財産分け)
⑦住所変更等の通知義務
⑧清算条項
⑨強制執行認諾条項
などですが,これらの中から,当事者双方の要望や必要性に応じて,離婚協議書や離婚公正証書に記載する事項を決めるのです。
親権者と監護権者の定めについて
監護権者は,子を引き取って養育をする者で,親権と分離して別に監護権者を決めない限り,親権者が監護権者を兼ねる例が多く,親権者と監護権者を分けるケースはほとんどありません。
それは,親権者でないと子の財産管理等の法定代理行為ができないので,子の監護権者が親権を持たないと,その財産管理等の代理行為が発生するたびに親権者である相手方の関与が必要となり不便な事態が生じるので,でき得れば親権者と監護権者は一致させた方がよいと思います。
子供の養育費について
養育費とは
子が親と同程度の生活水準を保って生活していくのに必要な費用で,具体的には,食費,衣料費,住居費,教育費,医療費などがあります。
養育費の詳細については下記の記事で解説いています。
養育費について民法の一部改正
養育費については,平成23年5月の民法の一部改正(平24年4月1日から施行)により協議離婚の協議に際しては「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と「養育費の分担」が定められました(民法766条)。
そのため,国は,離婚届の末尾欄外に「養育費の分担の取決めをしているかどうか」のチェック欄を設けて,この方策が確実に実行されるようにしたのです。
養育費の不払い解消に向けた法改正等の検討
ところで,2020年7月初めの某新聞記事によると,政府が同年7月1日に決定した女性活躍の重点方針に「すべての女性が輝く」ための方策が打出され,その中に「養育費の不払い解消」に向けた法改正等の検討があげられているとのことです。
この法改正等の検討については,これからスタートするため,まだ具体的な方策は決まっていませんが,同新聞記事によれば,「養育費の取り決めを協議離婚の条件にすること」や「行政機関による養育費の立て替え制度の創設」などを検討していくと思われるので,従来の養育費の分担に関する上記の方策に比して,今後,更に踏み込んだ方策が実現される可能性ありますから,注目しておいてください。
養育費の算定について
養育費の金額については,基本的には,離婚時におけるお互いの財産や収入の状況などを踏まえて,双方で協議して決めることになります。
なお,東京家庭裁判所のホームページになどに「養育費・婚姻費用算定表」(令和元年版)がありますので,これを参考にしてください。
次回は,養育費の支払い,子供との面会について解説します。